佐賀県にあるヅーベット山の名前の由来について
ヅーベット山の由来について音声学的に考えていたところ、ふと気が付いたところがあり、調べてみると大分県に「定別当(ジョウベットウ)」という地名を発見した。
■大分県宇佐市院内町定別当
定別当付近の地図
この名前は発音的にヅーベットに近いのではないだろうか?
また日本語的に珍しい発音である。この地の名前の由来を探してみると何か発見があるかもしれない。
また「定別当」という苗字の人もいるようだ。
■「定別当」発見までの経緯
ヅーベットがアイヌ語であるという説を検証していました。
もし、アイヌ語であれば、「ベット」の部分が発音記号で[pet]に相当すると思います。(petは川を意味します。)
しかし、アイヌ語には、ヅーに相当する部分に対応する単語が見当たりません。アイヌ語には「ツ」「ヅ」で始まる単語がないのです。
ここが一番ネックだと思います。
※petが由来の例:当別、サロベツなど「別(ベツ)」
※チュで始まる単語はある。ナウマンゾウが発見された忠類(チュウルイ)などの地名に残っています。
※「津別」との類似性も指摘されていますが、アイヌ語の発音的には「チュペッ[tupet]」という感じの短い発音なのであまり関係はなさそうです。
「チュベッ」⇒「ツベッ」⇒「ツベツ」⇒「津別」と変化したと思います。
日本語は、子音+母音でできているので[pet]に母音を足して[petu](ペッツ)[peto](ペット)[betu](ベッツ)[beto](ベット)などの音に変化しやすい。
そこで「ヅー」の部分を発音が似ている「ジョウベッツ」「ジョーベッツ」「ジョーベット」「ジョウベット」に変えた類義語がないか調べてみたところ、今回の「ジョウベットウ」という地名を発見しました。
大分の宇佐と佐賀であれば比較的近いので何らかの関係があるかもしれません。
※あくまで自分で考えた検証されていない仮説です。
■定別当から胴別当を発見
「ヅーベット」と「別当」で検索すると「胴別当山」と書いたとする説が出てきました。
(銅別当、頭別当と書いてあるサイトもあり)
5年ぐらい前に調査したときは見当たらなかったのですが2009年以降の記事で記載が増えています。
■ここから音声学的な推論
■佐賀弁との関係で考える。
胴別当「ドウベットウ」を佐賀弁で考えてみます。
佐賀弁には連母音融合に特徴があります。
連母音とは、「おう」[ou]のように母音が続くことを言います。
このように母音が続いたとき標準語では[ou]は、最初の母音を使って[o:](オー)と延ばしますが、
佐賀弁では、二つ目の母音を使って[u:](ウー)と延ばします。
そこで「胴」[dou]は、標準語では[do:](ドォー)となりますが、
佐賀弁では[du:](ドゥー)となります。
したがって胴別当は「ドォーベットウ」ではなく「ドゥーベットウ」となります。
[du:]をドゥーと書くのは最近(1945年または1986年以降)です。
それ以前の地図など正式に記載される時には「ズー」または「ヅー」と書かれていました。
佐賀弁では、「ず」と「づ」を明確に区別する特徴もあるので[zu]の音は「ズ」、[du]の音は「ヅ」と表記されると考えられます。
佐賀弁の音の変化についての参考サイト
(Wikipediaの佐賀弁の項目より)
「ヅ」の音の表記についての参考サイト
(Wikipediaの「づ」についての項目より)
以上のことから
「胴別当」を佐賀弁で発音すると連母音融合の観点と「づ」の表記の観点から
[doubetou]⇒[du:betou]⇒[du:][betou](ヅーベットウ)
と表記されるはずです。
最後の「ウ」は現時点では謎です。
最後も連母音融合が発生するのであれば[betu:]「ベッツー」となるはずです。「ズーベッツー」となるはず。
一つの可能性として、九州一帯の方言の特徴で動詞の語尾の母音が脱落して子音で終わることがあるようです。
これを当てはめると
[du:][betou]⇒[du:][bet]
となり、「づーべっ」という感じの発音になります。日本語は基本的に母音+子音で構成されているので地図に表記する際「ヅーベット」となったのではないかと思われます。
■単語の最後の母音が脱落する事例
「佐賀」「別当」で検索すると「貴別当神社」が出てきました。
「キベット」と読むそうです。同じ「別当」を使う事例で「キベットウ」ではなく最後の母音が脱落しているところが、「ヅーベット」の発音と類似性があります。
この事例から「ヅーベットウ」の最後の母音がない具体例が存在することがわかりました。
■ここまでの推論からの導かれる仮説
ヅーベットは佐賀弁で[胴別当]を発音したものである。 |
音声学的には、「胴別当」は佐賀弁で「ヅーベット」と発音していたであろうことが推論されました。発音的には、[du:][bet]「づーべっ」
(あくまで、個人的に考えた他者に検証されていない仮説です。)
■しかしそもそも「胴別当」とは何か?
さらに一歩進めて、この名前自体に元となる由来があるのではないかと考えています。
アイヌ語ではないにしても朝鮮などの別言語の当て字である可能性と、「胴別当」という言葉自体に意味がある可能性を調査したいと思います。
■別当とは何か?
調べたところ「別当」にはいくつかの意味がありました。
1. 律令制時代の役職または役所
2. 神仏習合における仏教側の役職(別当)とその人が住んでいた場所、仏閣
地理的に役所があったというよりは、神仏習合の神社があったか、そこに従事していた人が住んでいたと考える方が「可能性」があるかもしれません。当時は、神社は政治施設も兼ねていたので二つの意味の区別は時代によって変化しているようです。
■神仏習合としての別当について
別当は、周囲の複数の神社を管轄していたことも多いようです。
神仏習合は、明治時代に分離命令が出て神道の神社がのこり、仏教側である「別当」がなくなった例も多いようです。
■予測
胴別当(ヅーベット)は、神仏習合の別当である。そして、ヅーベット山のどこかに建物があった。 |
次は上記の予測を検証していきたいと思います。
この「ヅーベット=別当」仮説を実証するためには、下記の調査を行い、そのような事実があったことを検証する必要があるでしょう。
■直接的な検証のための根拠探し
ヅーベットの山中に神社または、その痕跡がないか調査し、それが「胴別当」と呼ばれていたことを確認する。
ヅーベット近隣の神社の調査し、合祀されていることを確認するか、ヅーベットを指示する痕跡を確認する。
■状況証拠としての調査
近隣(背振から佐賀県一帯)の「別当」について調査
近隣(背振から佐賀県一帯)の神仏習合について調査
■以下実際の調査の記録
メモ:
■背振神社と佐賀の乱
=>調査中
■脊振千坊
=>調査中
■神埼郡村誌 1881年(明治14)
直接の確認ではないが、手元にある角川地名大辞典41(佐賀県)のづーべっとやまの項目で「神崎郡村誌」の服巻(はらまき)に「胴別当」の記載があることを確認。慶長国絵図に南麓の「白木」の村の名前があると記載がある。